sometime , in our home おまけ





「おい!」
慌しく部屋に足を踏み入れると、姿を探しながら俺は声を上げる。
その声が若干上擦っているのが自分でも分かる。

“もうそろそろ帰ってもいいんじゃない”アロンの言葉を、一番望んでいた者に一刻も早く伝えたくて。

「どうしたの、あなたがそんな風に…珍しいわね?」
穏やかに微笑み、卓の眠る小さなベットから上げる彼女の横顔はすっかり母親の顔だ。

「あ、と、わりぃ …起こしたか?」
「ううん、大丈夫。 ぐっすり眠ってるわ」
「…そうか」
彼女の横に並び覗き込んだベットでは数ヶ月前に生まれた卓が何も知らずにすやすやと寝息を立てている。


「どうしたの?」
その言葉に一瞬忘れ去っていた、彼女を呼んだ目的を思い出し、告げてやる。
案の定、大きな瞳は俺の言葉を聞くなり潤み出し、今にも大粒の涙が零れ落ちそうだった。

「嬉しい…」
一言呟いて胸に飛び込んできた身体をしっかりと抱きしめる。
胸元を濡らす涙も…今は存分に流させてやるべきだろう。

が、予感していた通り、その涙は中々涸れることは無く。
彼女の心情を思いやる気持と、その姿を愛しく思う気持の他に、別の感情も生まれてくる。
子を産んでも線の細さは変わらぬが、今まで以上に柔らかさを感じる身体。
身体を気遣い、長いこと触れていなかった彼女の身体ではあるけれど、その魅力は決して衰えることは無いのだから。


「ほら、いい加減泣き止めって。 それと…そろそろ離れろ」
ぐいと起こして覗いた彼女の瞳は透明な滴で奇麗に縁取られていた。
それを口唇で拭ってやり、身を離そうとした俺の顔を、彼女は不思議そうに見上げる。

「どうして?」
見上げる瞳はあどけなささえ感じさせるのに、その無垢な表情ですら今の俺には拷問に近くて。
溜息を吐きながら、俺は本音を漏らしてみる。

「そろそろ…理性がもたない」
「理…性?」
「だから、聞き返すなって、そういうことを!」

赤くなってそっぽを向く俺の首に細い腕が巻きついた。
その行動の真意を測りかねながらも、俺は再び細い腰に手を回す。


「…いいよ」
耳元で小さく囁かれた言葉は、俺の内で願うことを肯定するものだった。
けれど、出産間もない身体にその行為がどれ程の影響を与えるのかが分からぬ俺は、つい腰が引けてしまう。
それを感じ取ったか、彼女は再び小さく囁いた。

「もう、…わたしに…興味…なくなっちゃった?」
「ば、じゃなくて! お前の身体のことが…」 
「…だい…じょう…ぶ。 もうしても…いいって…」

耳朶を桜色に染め、はにかみながらも彼女の口から切れ切れに零れる言葉。
こうして、いつも俺は彼女の勇気に救われる。


そうすることだけが愛を確認する術ではないけれど。
二人が一つになる、一番近くに感じられる、それはとても幸せな行いだから。
そして、そうしたいと願うのは未来永劫、…彼女に対してだけだから。




首に手を回したままの身体をそっと横抱きに抱えあげると、シーツの波間へと横たえる。

「いろいろ…変わってて、がっかりするかも」
「んなこと…ねぇよ」


決して俺が抱くはずの無い心配を溢す口唇を自分の同じ物で塞ぎながら、俺も同じ海へと沈んでいった。








*某所に置くには長くなってしまったのでこちらに。(ので、粗いです、スイマセン;)
 




back








inserted by FC2 system