未来の扉の先にも100%の真実はきっとあるはず…な話





お買い物も嫌いじゃないけど、ウィンドウショッピングの方が好きかも。
実際に手に入れる服やバッグをじっくりと選ぶのもいいけれど、
絶対に身に着ける機会のないようなドレスやアクセサリーも、
女の子同士で覗き込めばあれこれとお喋りしながら一時の夢を楽しめるから。

楓ちゃんや時にはゆりえさんとお話しながら覗き込むウィンドウ、
真壁くんと居る時とはまた違ったわくわく感で自分も女の子なんだなと感じる時。
…でも、そう言えばこれは誰かと覗き込んだことはあったかしら?


初めて見た時はまだ中学生、初めての街、初めての学校、初めての恋
色々な「初めて」の中でその姿に抱いたのはひとえに「憧れ」。
でも、それ以外にここを覗く女の人は傍目にはどう映るのかしら。
年を取っていれば、いい年して昔を懐かしんでるの?
左手の薬指に落ち着いた光を放っていれば、何を今更。
妙齢で一人で覗き込んでいるのは余りにも寂し過ぎる光景だし、
だからと言って恋人同士で足を止めるには、先のことを強く暗示させ過ぎて。
単に可愛い、奇麗なものを見たいだけの純粋な気持でも何となく気が引けてしまう、
様々なデザインのウエディングドレスが飾られたショウ・ウィンドウ。


白にも色々な白がある、そんな当たり前のことを目の前の光景を見つめながら改めて気付く。
スノウホワイト、パールホワイト、オフホワイトにミルクホワイト。
スポットライトを当てられたそれらの一つ一つは、女の子が一生に一度だけ纏う特別な、白。

生憎と、というか不運(それとも幸運?)にも待ち合わせ近くにあったそれを、わたしはぼうっと眺めていた。

時折左手に目を落としては回転を続ける長い秒針に合わせて数を唱えてみる。

13、14、15、16、…

あなたと出会ってから、この秒針は小さな文字盤の上を一体幾千回巡ったのかしら。
その間にあった出来事を走馬灯のように思い出しながら。


二人が同じ道を歩む将来(さき)は多分、…ううん、彼の言葉ではきっとある。


その時わたしはどんな姿で、彼の横に立っているかしら。
ウィンドウで映えるドレスを一つづつ纏ってみては、彼の隣に並んでみる。
思わず考え込んでしまったら、取り繕うことがすっかり疎かになっていて。
気付けばまるでそのどれかを購入するかのように物色している視線になっていたその時、
ポンと軽い音が頭の上でした。

「待たせたな」
「…あ、ううん」
ここで「退屈しなかったし」と言えば、余計に変な気をつかうだろうし。
…それとも真壁くんのことだから気が付かないかな。

次の一言が中々紡ぎ出せないわたしの側で同じように視線をそちらに遣りながら真壁くんが口を開く。

「華やか…だな」
「あ、そ、そだね、目の保養っていうか」
布地や仕立ての美しさに気を取られていた事にして、何とかはぐらかす。

「さ、いこ?」
「…ああ」
そして二人で並んでゆっくりと歩き出す。
真壁くんの隣に自然に居られることが嬉しくて、ついさっきの光景もわたしも頭から直ぐに消え去る。



もうショウ・ウィンドウが見えなくなった頃、不意にポツリと真壁くんが呟いた。

「もうちょっとだけ、待っててくれ」
「え?」
「いつか…ってやつ」
「は、はいっ」
ちらりと横目で真壁くんをを見れば、その耳までわたしと同じくらい真っ赤に染まっていて。
まるで彼の照れがうつったみたいにわたしの頬までじんわりと熱くなる。


…うん、そのときが来たら。
長い人生の中で唯一じっくりと見られる、その時には、
他のどんなカップルよりも幸せそうな表情で眺めている二人になりたいな。
あなたは今みたいに照れてそっぽを向いてるかもしれないけど。




それはきっと近い未来の青写真。







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